ロングトレイルの旅   関東ふれあいの道一周

1都6県をつなぐ自然歩道「関東ふれあいの道」1800Kmを一周するりゅうぞうのブログです。

旅人は「一日の王」

 

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(写真:北杜夫編『日本の名随筆 山』作品社、1983年、表紙)

みなさん、こんにちは。

Σ (´゚д゚`)

今回は「山の本、旅の本」シリーズです。

前回の「山の本、旅の本」はコチラ⤵

前回は、南極探検をアムンセンと争ったスコット隊の遭難を記録した『世界最悪の旅』のお話をしました。

5名の極点隊が全員死亡するという悲劇を扱った本なので、愉快に読むというわけにはいきません。特に、皆の足手まといにならないようにと、自ら死を選んだオーツという隊員の最後は、読んでいて強く心を打たれます。

今回紹介する『日本の名随筆 山』は、その名の通り山をテーマにした随筆集ですから『世界最悪の旅』とは違って気楽に読める。

ここに収められた30編の随筆は、どれも素晴らしいものですが、なかでもぼくの大好きな、尾崎喜八「一日の王」という作品を紹介しましょう。

 

一日の王

ほんの6ページの小品ですが、山を一人で旅するときに感じる、あの豊かな気持ちや、心地よい孤独感、人里に到着した時に覚える暖かさが見事に描かれている。

随筆というより、短編小説のように読めます。

作者は尾崎喜八、『山の絵本』などの著作があり、山の詩を多く書いた詩人です。

 

「背には嚢、手には杖、一日の王が出発する。・・・・・そして彼は今日の山路のすがすがしい美しさと、その明るい広がりとを思う」

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この書き出しだけで、一人旅の高揚感や自由な気持ちが伝わってくる。

誰に従うわけでもなく、自分が歩きたい道を、自分で考えたように歩く。

確かにこの瞬間、旅する人は「一日の王」に違いありません。

この後、山を登る描写のあと、岩に腰かけて昼食をとる場面となります

 

「いま彼は単純な中食にとりかかる。

先ず鞣革(なめしがわ)に包んだ切子のコップを取り出して、小瓶に詰めた葡萄酒を注いでぐっと飲む。

旨い! もう一杯。

それからフロマージュ入りの棒パンをかじりながら水筒の水を飲む。」

 

どうですか、おいしそうな昼食の様子!

パンとチーズの、決して贅沢とは言えない食事ですが、山上で食べる食事のすばらしさが伝わってくると思いませんか。

まさに「王の食事」!

 

これはぼくの昼食。

f:id:trailtravel:20190305223804j:plainこれも「一日の王」の食事です。

 

そして彼は食事を終え、旅を続けます。 

「彼は午後の大半を、尾根から山頂へ、山頂からまた尾根へと、一日の太陽の鳥が大空をわたって、その西方の金と朱に飾られた巣のほうへ落ちていく頃まで歩いた。」

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「尾根では、いつものとおり暖かでひっそりして、自分自身がおとなしい野山の鳥やけものや、(略)草や木とちっとも変った者でないことが感じられた」

 

このくだりもすごく共感を覚えます。

広大な山塊を独り占めする満足感と同時に、自分も山々の一部となって取り込まれていくような不思議な感覚。

独りで旅する人ならみな、きっと感じたことがあると思います。

 

やがて日は暮れ始め、彼は山を下ります。

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「彼はようやく出逢った最初の部落を、(略)脇目もふらず通り過ぎるには忍びない。

老人に、若者に、娘に、彼は道をきくだろう。(略)彼らと二言三言口をきくために、彼は求めて道をたずねるだろう。

 

トレイルの旅の魅力の一つは、自然の中にいて感じる孤独と、里に降りたときの人の懐かしさが交互にやって来ること。

里に出た時の安心感が緊張をほぐし、人に対する愛情に変わります。

 

「そうして、たちまちにして、彼は初めて見たこの谷奥の寒村を、旧知の場所のように思ってしまうだろう」

 

 

そして、旅の終わりには今日歩いた道のりを思い返しながら、誰もがこう思うに違いありません。

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「かくて、貧しい彼と言えども、値無き思い出の無数の宝に富まされながら、、また今日も、一日の王たることができたであろう」

 

この一文で「一日の王」は終わります。

ぼくは、この文以上に、旅することの喜びを語っているものはないと思います。

旅を終えた人、あるいは山から下りてくる人は、たいてい薄汚れ、疲れ切っているように見える。

旅をしなかった人には、なぜこんなことが楽しいのか不思議に思える。

でも、見えないかもしれないけど、彼は「無数の富」を持って帰ってきたのです

「一日の王」として。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

ではまた。

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